「シェルターメディスン」とは?
今回のテーマである「シェルターメディスン」とは、簡単に言うとシェルターで暮らす動物に特化した獣医学のこと。シェルター内で暮らす動物たちの健康を維持しながら群管理を行い、心身ともに健康な動物を一頭でも多く譲渡することを目的としています。日本ではまだ聞きなれない言葉ですが、アメリカでは近年、その必要性が強く叫ばれるようになり、獣医学の教育現場でも研究テーマとして積極的に取り入れられているそうです。
今回のセミナーではまず、カリフォルニア大学デービス校でシェルターメディスンを学んでいる田中亜紀氏が「譲渡を促進する科学」と題して講演。シェルターの収容能力についての考え方と譲渡のための猫の評価基準について具体的な数字を用いて解説しました。また、アメリカのシェルターで譲渡を進めるために実際に行われている工夫について「カットのスタイルを工夫したり、ウエアを着せたりして動物に個性を持たせる」「覚えやすい名前とキャッチフレーズをつける」といった具体例を挙げて紹介しました。
「環境エンリッチメント」で譲渡を促進
続いて登壇した日本獣医生命科学大学准教授の水越美奈氏は、シェルターメディスンにおける動物行動学の重要性を指摘。譲渡前の動物の行動評価と譲渡後のフォローアップを徹底し、シェルター内の環境のエンリッチメント(※)を行うことが、動物の問題行動を解消し、譲渡促進につながると述べました。さらに犬・猫それぞれにとって効果的な環境改善のポイントについて、動物行動学の立場から詳しく解説。豊富な具体例を交えた解説に参加者の皆さんはメモを取りながら熱心に聞き入っていました。
(※動物福祉の立場から、飼育動物の幸福な暮らしを実現するための方策を講じること)
講演後のグループディスカッションでは、東日本大震災の被災地で実際にボランティアを行ってきたスタッフ、ボランティアを受け入れていた行政機関職員が、それぞれの立場での経験談を披露。「ボランティアに何ができるか、ボランティアになにをしてもらいたいか」について活発な意見交換が行われ、「お互いのニーズのマッチングが必要」「ボランティアの業務や責任範囲の明確化が重要」「行政機関にできないことをボランティアスタッフに担ってほしい」などの意見が出されました。
次回、第7回アニマルシェルターセミナーは2013年12月に日本獣医生命科学大学(東京都)にて開催予定です。ご興味のある方は是非ご参加ください。