●犬のボディランゲージを読み取る
東京や神奈川の複数の会場で講演をされたヴィベケさん。どの会場も大変な盛況ぶりだったと聞いています。聴講に来た人は、ドッグ・トレーナーやトレーニングに関心の高い一般飼い主、トレーナーの卵たちである専門学校の学生などです。
8月30日〜9月1日に麻布大学(神奈川県相模原市)で開催された第8回JAPDTカンファレンスでは、ヴィベケさんは「人間の健康、犬といるおかげ! 犬パワーからもらえる、人間のボディランゲージについて」と「福島の震災から救われた犬〜トラウマがどんな影響を与えたのか〜彼のサクセスストーリーとボディランゲージ解析ライブショー」、「飼い主と愛犬が気づく関係〜いったい信頼関係とは何をもって具体的に定義できるのか」「犬のボディランゲージとメンタルキャパシティ」といった4つの講演がありました。
最初の「人間の健康〜」では、ヴィベケさんが育てたセラピー・ドッグ、アスランという名前の白いシェパード・ドッグの病院での活躍ぶりや、患者とどう付き合うか、どういう効果があるか、また注意点などスライドを見ながら聞きました。
「犬は人間の行動を全部見ている優れた観察者。それだけに犬は人間からの影響を受けやすい動物です」。つまり一般の家庭でも、飼い主の精神状態が犬の問題行動の原因になっていることがあります。
さらにはセラピーを受ける人の多くは心が乱れている状態なので、犬も影響を受けやすいとのこと。だからセラピー・ドッグを育てるときは、まず犬にメンタル・テストをして、メンタル・キャパシティーのある犬、強い精神力のある犬を選ぶことが重要だそうです。人間のために役立つ仕事に従事させる一方で、犬側の目線を忘れず、犬に負担をかけない方法をつねに考えている姿勢が感じられました。「犬も幸せ、人も幸せにしないとダメ」とヴィベケさんは強調します。
このように犬側の立場、犬側の気持ちを察知し、想像することは、セラピー・ドッグに限らず、家庭犬でも同じく重要といえます。
「犬たちが五感で感じているもの、嗅いでいるものなどは私たちにはわかりません。だから彼らが何を感じているのか、犬たちのボディランゲージを読み取ることが大事です。そうすれば彼らはさらなる友情を返してくれるでしょう」
●犬と飼い主はひとつのユニット。協調が大事
ほかの講義では、モデルの犬たちに登場してもらってデモンストレーションを行い、実際の犬のボディランゲージをリアルタイムで細かく説明。非常におもしろい内容でした。
その中でとくに印象的だったのは、犬との関係をうまくいかせるためには、愛犬との協調性がないといけないというお話し。「犬と私はひとつのユニット。そういう関係、そういう絆が大事です」。絆をつくる刺激の一つとして、ヴィベケさんが本物のオオカミさながらの遠吠えを披露してくれたときは会場じゅうが沸きました。
また「犬のボディランゲージを正しく飼い主が読み取ってあげることで、信頼関係が生まれる。信頼は協調でもあります」とヴィベケさんは言います。信頼とは、一緒に楽しく時を過ごすこと。「人間からの一方通行ではいけないです」。ときに私たちは、人間からの一方通行の都合や愛情を押しつけていたり、反対に犬からの心からの忠実な想いを無視していることもあるのではないか、と考えさせられました。
「犬が何をしてほしいかを察知すること。それが信頼のはじまり」という言葉が胸に響きました。
そのほかにも「犬同士のケンカを仲裁するときは、叫んだり怒鳴ったりするよりも、静かに制する方がよい」とか「顔を近づけるというのは犬にとって脅威なので、(人間側は)目を閉じるべき。目を閉じると犬は安心する」、「人間は他の動物(犬など)のリーダーやアルファにはなれないけれど、ガイダンス(てびきや指導)を与えることはできる」、「介助犬などハンディキャッパーが使う犬はコントロールや世話をしやすいように避妊・去勢を行うことが多いが、家庭犬では普通手術はしない。とくにハンドラーやトレーナー自身の犬はたいてい未去勢・未避妊である」など、目からうろこが落ちるようなお話しもありました。
日本では、今までアメリカやイギリスなどの英語圏にトレーニングや動物行動学を学ぶために留学する人たちが多かったし、翻訳される本も英語圏のものが大多数のため、北欧のデンマークやスウェーデンのような動物福祉国の情報・知識・価値観に触れる機会が乏しかったといえるかもしれません。そういう意味でもヴィベケさんの来日は、犬文化や犬知識の新しい世界が広がるとても意義深いものでした。
(写真協力 : 藤田りか子さん)